QSE

原子核システム安全工学講座
核エネルギーシステム安全工学分野 (高橋(信)・狩川 研究室)

研究の最前線から
脳機能イメージングによって、航空管制官に特有な神経回路網を発見。
得られた知見を空の安全につなげていく。

高度な専門性が要求される航空管制官という仕事。

 一日当たりおよそ1040機(Aircraft Movements 2011 FINAL)。これは東京国際空港(羽田空港)の航空機発着回数です。世界で最も忙しいとされるハーツフィールド・ジャクソン・アトランタ国際空港(米国ジョージア州)では約2530機/日(同統計)。空港の規模や滑走路の数などが異なりますから単純な比較はできませんが、今後も航空需要が増え続けると見込まれる点は共通しています。

 過密化する空の便を、安全・効率的にコントロールする上で、重要な役割を担っているのが「航空管制官」です。しばしばドラマや小説の題材にも取り上げられているので、ご存知の方も多いことでしょう。航空管制官は、風向きや天候、航空機の特性、燃料の残量、さらには急病人の発生など刻々と変化する状況に即応しながら、円滑な運航を維持する任を当たっています。そしてその仕事は、極めて高度な専門性が要求されます。

 高橋研究室では、10年以上前から航空関係のヒューマンファクタの研究に取り組んできました。初期には、計器やスイッチ類、モニターなど多くの要素で構成される航空機のコックピットのインターフェースを、現役パイロットとともに探究してきました。その後、航空管制官のフィールドに機軸を置き、脳機能イメージングを応用した認知システム工学を展開しています。

研究の最前線から

航空管制官の脳の活性領域。右運動前野、上頭頂小葉、左前頭葉が活発に活動していることがわかる。

現役の航空管制官に特有な脳の機能をfMRIで解析。

 航空管制官は人間の信頼性に依る仕事であり、安全性の担保には人的要素が非常に大きな比重を占めます。同時に複数の航空機を担当し、レーダーの平面画面から空という立体空間を把握するために、特に重要となるのが「記憶と空間認識能力」です。

 高橋研究室では、現役の航空管制官と未経験者との間に、どのような脳機能の違いがあるのかを探るため、脳科学の世界的拠点として知られる東北大学加齢医学研究所・川島研究室と連携、協働し、fMRI(functionalmagnetic resonance imaging:機能的核磁気共鳴画像法)を用いた脳機能解析に取り組みました。複数の航空管制官と未経験者の同意と協力の下で行った心的イメージテストにおいては、航空管制官は空間認知能力において未経験者よりも有意に優れた結果を示しました。fMRI 画像をみると、空間を構成したり処理したりする部位が活性化していたことがわかりました(図参照)。航空管制官の脳には、仕事に必要な特有の神経回路網が存在しますが、これらは技能トレーニングやOJT(On-the-Job Training:職場内教育)によって構築されたものと考えられます。

 高橋研究室では、ヒューマンファクタの要である脳の働きの探究を通じて、高度複雑システムの安全性向上に資する実践的訓練プログラム等に研究開発につなげていきます。

研究の最前線から

頭に装着している超小型NIRS(近赤外光を用いて頭皮上から非侵襲的に脳機能マッピングできる)は、日立製作所、川島研究室と共同で開発したもの。リアルタイムで脳共感を測定することができる。

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